日本計算機統計学会 第22回大会(秋田)
平成20年5月22日(水) - 23日(木)
秋田市文化会館
特別講演(22日)の背 景の理解のため の参考資料[06]

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上槽:舟(槽, ふね)おろし,吊るし,搾り,濾過

上槽:
濾 過

槽とは大きな容れ物という意味である.即ち,「醪の入ったタンクを容れ物 (槽)だ けにする」作業のことで,醪の処理をする過程である.

その過程は,必然的に「濾過」作業である.

古式では,醪を袋に入れて吊るす濾過方法があった.この方法では,初めは,袋の目詰まりがないので,濁った酒が結構な勢いで出てくる.
しかし,醪には多くのコロイド様の微粒子を含むので,直ぐに目詰まりをお越し,暫くすると雫となって透明な酒が滴りおちるようになる.適度の目詰まりが濁 りのない出来立ての独特の香 りを伴う日本酒を提供する.この日本酒では,酵母が未だ生きており,一部溶け込んだ糖分や微量のタンパク質の分解が進行し続ける.

こうした,方式(吊るし)は,時間の経過とともに目詰まりの程度が増し,そのままでは濾過の時間も非常に永くなるので,最後には,機械的に圧力をかけて搾 りきらなければならなくなる.また,製品としての均質性は保てな い.

最近までは醪を詰めた多くの袋を舟形の容器に整然と並べ,上から蓋をして圧搾して濾過をする「舟」が使われていた.

それよりも,写真のような近代的な濾過装置による濾過が現在の方法である.

funagake
圧搾濾過機

醸造タンクから導かれた醪の液体をこの装置に導く.

装置は何層もの蛇腹状の濾過膜からなっており,後方から機械的に圧搾を受ける.濾過膜は更に空気圧で均一な圧力が一枚一枚の濾過板に加えられ,無駄のない 工夫がなされている.

濾過機を通過した液体は濁りのない済んだ生の日本酒である.

この濾過機から出てくる日本酒にも未だ醸造に用いた酵母や麹が混じっている.

一時代昔は,搾り立ての日本酒を大きな貯蔵タンクに蓄え,瓶詰めなどの工場出荷まで寝かせていた.
そのための年間を通じて温度が一定となる貯蔵蔵を保有していることが,酒蔵の象徴でもあった時期があった.
その名残りの「蔵」が幾つもこの蔵元にある.
  reservor_tank1 reservor_tank3 reservor_tank2  

しかし,均質性と同一性が製品の宿命である以上,搾り立ての生の日本酒をそのまま寝かせておくことは,「危険な過程」でもある.

できるだけ早期に醗酵を促進する可能性のある菌類の酵素機能を停止させ,作り立ての品質を保つ方法が各酒蔵で採用されている.

火入れをして貯蔵タンクに保存する方法.
搾り立ての生の日本酒を調整して瓶に詰め,その後,瓶のままで火入れをして出荷までの貯蔵を行う方法.

さまざまである.


reservor_tanks


貯蔵タンクが整然と並ぶ貯蔵庫

現在は,その意味は低下している.
blending_tanks

左の写真は,瓶詰めのための搾り立ての生の日本酒を「調合」する巨大なタンクである.

この調合後に一時保管され,直ちに瓶詰めされ瓶のままで貯蔵される.


以上で,日本酒つくりのエッセンスを概観して来た.実は,日本酒造りはこんなに単純ではなく,もっともっと奥の深いもので,日本酒の愉しみ方にもつながる ことが沢山ある.

おまけ:その雑学的な話題を1つ紹介する.

全国展開しているこの酒蔵では,濾過機(圧搾機)でできる酒粕をどのように処理しているのだろうか.
実は,酒粕を蒸留している.そして,酒米から造った上質の香り高い「焼酎」を造っている.
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この資料を作成しているものはこの香り高い焼酎も愛飲している.
この右の写真が「酒粕蒸留機」である.個体に近い酒粕をどのようにして蒸留するのかの詳細は,省略するが,知りたい人は,講演会で演者に質問を・・・.

最後に雑学その二

日本の日本酒造りの最盛期は,昭和45年頃であった.
当時の年間日本酒生産量は,900萬石(1石=180 l) であったそうな.
現在では,300萬石となっているそうな.1/3である.

しかし,確実に日本酒の質は問題なく現在が上である.

そして,日本酒の繊細さと,それが提供する全ての品質が我々の身近な手の届く範囲にあること,その愉しめる 品質の幅が広いこと,日本酒に合った食材が極めて豊富であること,四季の風情さえ日本酒に合わせて変化をしてくれること,・・・を肌身に感じている次第で ある.


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