日本計算機統計学会 第22回大会(秋田)
平成20年5月22日(水) - 23日(木)
秋田市文化会館
特別講演(22日)の背 景の理解のため の参考資料[05]

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一麹 二酛 三造り (3)

三造り:一般酒,純米酒,吟醸酒, 大吟醸

15世紀末に興福寺の多聞院で始まった「三段仕込み」は,原料の加え方に各 種 の変化がある.この蔵も「三段仕込み」で醸造している.

【三段仕込み】
酒毋に,
 初添(はつぞえ)
 仲添(なかぞえ)
 留添(とめぞえ)
と呼ばれる三段階で醗酵の様子を見ながら原料(麹,蒸し米,水)を加える.
正確には,酒造米を決めた時点で,配分量が決められるというのが正しいのかも知れない.

   例:ある純米酒の場合の概数を参考までに(本当のものではない)
    sandan_sikomi

こうして仕込んだ状態のものを「醪(もろみ)」と云い,一般には日本酒になる前段階のものである.
酒毋に最初に原料を加えた(初添)直後は,1日間は何もしない時間で,「踊り(おどり)」と云われる.

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酒毋(日本酒つくりに不可欠な原料と糖化とアルコール醗酵に必要な酵母 を含んだ「(日本酒つくりの)開始剤(starter)」)が出来上がると,これに,原料となる蒸し米,麹,汲み水を加え醗酵を促進させる.

右の写真の仕込みは,吟醸酒の仕込みで温度管理が大切である.

訪れた日は,朝の気温が-4度で,酒造りの蔵の全体の温度は外気程ではないが,十分に冷えていた.
左の写真の部屋は,発酵熱も加わり,他の部屋より10度近く室温が高い気がした.


この部屋の隣室には,「大吟醸」の仕込みがタンクで行われていた.

「低温長期醗酵」が吟醸酒以上の水準の日本酒造りの基本である.

撮影時に中の様子を拝見し,その淡く甘い芳香に大吟醸独特の醪の香りが鮮明に残っている.

杜氏の自慢の一品となる.

右下の小さな写真のように,酒毋に原料を加えた段階からの詳細な温度管理の記録がなされている.

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この蔵は,全国に製品を出荷している大きな酒蔵であるが,吟醸酒や大吟醸の方法では需要がまかないきれない.
販売量の拡大は,製造方法に加え,「品質の安定性」が重要な観点となる.

鉄分を極端に嫌う酵母を用いる日本酒醸造では,従って,一 切の過程で鉄との接触を断っている.木製の醸造樽(桶)の調達が不可能な現在,琺瑯(ほうろう)は最も一般的な鉄分の混入を防ぐ方策である.

鉄分の混入は,汲み水にも云えることで,酒造りでは鉄分や同じような化学的性質を持つ金属イオンを含まない水が要求される.酸性の水には鉄やマンガンなど の不適な金属イオンが含 まれる場合が多いので,一般に避けられる.

貝の殻などが堆積した古い地層を通過して来た水は,鉄イオン等が水酸イオンと反応して沈殿し,結果的に濾過されるので好ましいとされる.灘などの酒水はこ の 種のものである.

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大吟醸はその生産量も少ないが,比較的に大量に醸造される品種では,製品の安定性/均質性を追求して機械化が進んでいる.

麹菌をまぶされた蒸し米は,左図のプラスティックのパイプで醪タンク(右上:酒毋に原料を加える大型のタンク)に輸送される.

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この写真は,三段し込みの最後の添加である「留添」のための原料を加えているところである.

輸送される原料のためのプラスティックのパイプの傍にある二本の長い棒は櫂(かい)で,醪が塊になるのを防ぐための撹拌棒である(上下運動による内部対流 を起こして塊 にならないように醪を均一にする).

この最後の原料の添加が終わると,原料の蒸し米の粒の澱粉の糖化,糖分のアルコール醗酵,が再び盛んになる.

その様子を留添後の日数でどのように変化するのか追跡する.(4枚の一連の写真で確認する)


留添後:1日目
加えた原料の量が上の写真と右の写真を比較して認識できる.

タンク内で炭酸ガスが盛んに発生し,未だ蒸し米の粒の形が残っていることが確認でき,醪の表面の中心部が全体的に盛り上がったような状態である.

表面に洗われている粒も,十分に大きい.
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留添後:2日目

表面の中央の盛り上がった部分の「滑らかさ」が増している.

そろそろ,櫂を入れて撹拌しなくても,タンク内部での醗酵による炭酸ガスによる対流が恒常的になされる状態になる.

tome_soe_1d

留添後:3日目

3日目に入ると,炭酸ガスの泡も小さな気泡となり,タンク内部で均一な醗酵が進んでいる様子がうかがえる.

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留添後:4日目

この頃になると,原料の麹や蒸し米もその粒の形状を殆ど保たない状態になり,全体が更に均一でユックリとした対流が起こるようになる.


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写真の右側にある測定器は,振動型アルコール濃度測定器である.
原理は,一定量の試料を測定試料セルに入れて,それの固有振動数を測定する.固有振動数は,試料の密度,温度,気圧,比重で定まるが,比重は別途に測定 することで求まるので,求まった密度からアルコール濃度を推定する.


この後,冬場の天然の気温を利用して,ゆっくりと低温で醗酵を進める.

この間,醗酵の様子を醪のアルコール濃度を確認することで品質管理を行うのが普通である.


fermentation_tanks
整然と並んだ醪タンクで長期低温醗酵が行われる.

醗酵が完了すると,「三造り」の過程が終了する.

次の過程は濾過である.

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